株式会社 GSユアサ(社長:村尾 修、本社:京都市南区。以下、GSユアサ)とNTTコミュニケーションズ株式会社(社長:丸岡 亨、本社:東京都千代田区。以下、NTT Com)は、2020年12月、AIによる蓄電池システムの故障予兆検知技術(以下、本技術)の開発に成功しました。
本技術は、NTT ComがAI技術の一種であるディープラーニングを用いた時系列データ解析技術※1を提供し、GSユアサがリチウムイオン電池を活用した社内設備の蓄電池データを提供することにより実現しました。

1.背景

リチウムイオン電池は、太陽光・風力発電など再生可能エネルギーの出力変動抑制用途、電力設備や通信設備のバックアップ電源用途、鉄道や船舶、無人搬送車などの移動体用途など、さまざまな形で活用されており、脱炭素社会に向けた車の電動化などにおいても、今後ますますニーズが高まるものと考えられます。
それとあわせてリチウムイオン電池を安心・安全・安定して使用するための故障予兆検知技術に対するニーズも高まっています。
しかし、偶発的な故障は事前に想定してデータを取得することが難しく、故障と判定するためのしきい値の設定もシステムの運用条件によって変化する可能性があるため調整が困難でした。加えて、蓄電池システムの大規模化が進むなかでも経験豊富なオペレーターの目視による診断に頼らざるを得ないという課題もあります。
GSユアサとNTT Comは、このような課題を解決するため、2016年からAIを活用した蓄電池の故障予兆検知技術の開発やPoC※2を進めてきました。このたび本技術の開発に成功したことにより、今後商用環境に実装した際にも偶発故障の可能性のある蓄電池と正常な蓄電池とを判別し、故障の予兆を数ヵ月前に検知できる可能性を見出しました。
これにより、故障が発生する前に故障の可能性がある蓄電池のみを交換することや、省人・効率化した環境で大規模システムの監視が可能になり、安心・安全・安定した社会インフラとしての蓄電池利用が可能になります。


2.本技術の概要

蓄電池システムにおける故障の発生は極めて少なく、故障を起こした蓄電池のデータをAIの学習データとして用いることは難しい現状があります。このような場合、逆に正常なものの特性を学習することで、異常なものを検知する手法もありますが、蓄電池は経年劣化や使用条件によって正常な蓄電池の特性が複雑に変化するため、それも容易ではありません。
そのため、本技術においては、教師なし学習の一種であるAutoencoder※3を用いて異常を検知する手法を確立するとともに、正常時の特性が複雑に変化しても対応できるメンテナンスフリーなAIを開発しました。
故障予兆検知技術の開発にあたっては、NTT Comがディープラーニングを用いた時系列データ解析技術を、GSユアサがリチウムイオン電池を活用した社内設備の蓄電池データを提供することで実現しました。


3. 本技術の評価結果

蓄電池の故障は極めて少ないため、蓄電池システムの実証評価用にGSユアサが社内に設けている電力貯蔵装置(Energy Storage System:ESS)に、既設の正常な蓄電池とは異なる特性データを示す仕掛けを施した蓄電池を設置し、評価を行いました。
その結果、正常な蓄電池に対しては、故障予兆を検知することはありませんでした。一方、仕掛けを施した蓄電池については、従来の定義における故障の基準を満たしていなくても、確実な故障と簡易的に自動判断するための既存の自動警報発報システムより最大で2ヵ月程度早く検知することができました。
また、正常時の特性が変化しても検知できるか検証するため、蓄電池の使用条件を変更した追加評価においても仕掛けを施した蓄電池を識別できました。


4.今後の展開

GSユアサは、さまざまな用途に利用されている蓄電池システムに対して本技術が活用できるかを継続して検証します。効率よく故障予兆検知を行うシステムが確立できればメンテナンス面でかかるコストの削減にも繋げることができ、その結果、お客さまへのサービス提供をさらに充実させることが可能になると考えます。
また、遠隔監視システムで収集したビッグデータの中から蓄電池の故障データを抽出して学習させ、蓄電池の故障を特定する技術も検討してまいります。


※1 本AIは、NTTグループのAI「corevo®(コレボ)」を構成する技術です。「corevo®」は日本電信電話株式会社の商標です。
※2 Proof of Conceptの略。「概念実証」と訳され、新しい概念や理論、原理、アイディアなどの実証を目的として実験的に行う検証やデモンストレーションのこと。
※3 機械学習におけるアルゴリズムの一つ。入力したデータを圧縮し、同じデータに復元されるように学習する過程でデータの特徴量を抽出することができます。

■大規模蓄電池システムの状態監視のイメージ

[この件に関するお問い合わせ先]
株式会社 GSユアサ 広報・IR室
TEL 075-312-1214