「デトロイト号」は、展示されていた時のように車体をジャッキアップしたまま整備工場へと運ばれて来ました。まずは、車の動作などの状態を確認するため、ジャッキを外して直接床に降ろします。タイヤは比較的新しかったため、整備スタッフは「動かすことはできるだろう」と考えていました。しかし、期待はあっさり裏切られました。床に降ろした瞬間、車体が大きく傾いたのです。「デトロイト号」は自分の足で立つことができないのでした。 GSユアサ本社のロビーに展示されていた頃、この車はいつもその美しい姿で来客を迎えていました。また、工場見学に来られたお客様には、ボンネットを開けて蓄電池の様子をご覧いただいたり、運転席にお乗りいただいたりしていました。そのため、ボディーや車内はいつも社員の手によって磨き上げられていましたが、それはあくまでも展示のためで走ることは想定外。「デトロイト号」復活プロジェクトは、その最初のステップから厳しい現実と直面することになったのです。 なぜ車体が傾くのか。調べてみると、「デトロイト号」がはめているのはタイヤの内部にチューブが入っているタイプで、そのチューブにパンクが見つかりました。早速業者に問い合わせてみたものの、同じサイズのチューブがなかなかありません。比較的新しいとは言っても、タイヤも新製品が次々開発されていて、「デトロイト号」がはめていたものはほとんど残されていないようなのです。京都市内の業者を次々にあたり、何とか合うものを発見。ちょうど4本だけ残されていたものを手に入れることができました。さらにタイヤまわりを調べていくと、興味深い発見がありました。補強や改造の跡です。
応急処置としてタイヤを修理し、自分の「足」で立てるようになった「デトロイト号」。いよいよその動作確認を行います。とはいっても、内部の点検はまだですからモーターは動かしません。スタッフの1人が運転席に乗ってハンドルを操作し、他のスタッフが後ろから車体を押すだけ。それにしてもこの車が動くのは数十年ぶりのことになります。 実際に運転席に座ってみた「デトロイト号」は、想像以上にユニークな車でした。まず、運転席が後部座席。しかし、その理由はすぐに判明しました。一般的な自動車のハンドルは円形ですが、「デトロイト号」はバーハンドル。水平バーを手前に引くと右折し、前に押すと左折する仕組みです。前の座席だとバーハンドルがフロントガラスに当たって左折できません。また、バーハンドルは垂直方向にも動くようになっているのですが、これはどうやらでこぼこ道で車が上下に揺れても、ハンドル操作に影響が出ないように揺れを吸収する役割のようです。さらに、アクセルもハンドルの横にある短いバーで操作し、足元にはブレーキペダル。前進・後進の切り替えも足元のペダルで行います。そして何より驚いたことは、速度計などのメーター類が車内に1つもないことでした。 運転席に座り、車をゆっくりと動かします。ハンドルを回すのではなく「舵を取る」ようなイメージ。普通乗用車よりも車高が高く見晴らしも開放的です。今回は動かすのが目的なのでバーハンドルを操作するだけでしたが、走行時には、ハンドルもアクセルも同時に手で操作していたはずです。今の自動車とは全く違う運転方法。「デトロイト号」を実際に運転するためには、それなりの練習が必要かもしれないと思いました。 | ||||||||
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