GSユアサの電池をめぐる物語 The Deep Story

Vol.4捨てるなんてモッタイナイ、
余剰回生電力は貯蔵せよ!
~ 回生電力貯蔵装置「E3 Solution System」~

日本の電気鉄道の歴史は、
省エネルギー化の歴史とまでいわれます。
しかし、従来のように著しい軽量化が望めなくなった中で、
いま電気鉄道各社が注力するのがエネルギー貯蔵装置の導入です。
GSユアサは自社の産業用リチウムイオン電池を活用し、
このシステムを日本で初めて提携会社と共同設計。
装置の誕生を陰で力強く後押ししたのは、
EV実用化へむけて始まった蓄電池の技術革新でした。

産業電池電源事業部
電源システム生産本部 技術部
福田博寿

産業電池電源事業部 電源システム生産本部 技術部 福田博寿

エネルギー効率を追求し続けてきた日本の電気鉄道。

毎日の通勤・通学の足となり、旅に出ると車窓からの移りゆく風景が心をなごませてくれる電気鉄道。“鉄道大国”という名のもとに世界で活躍する日本の鉄道技術ですが、その歴史は省エネルギー化への歴史といっても過言ではありません。特に2011年に発生した東日本大震災は日本のエネルギー事情を激変させ、電気鉄道業界では電力利用の効率化へいっそうの取り組みが行われています。
産業電池電源事業部 電源システム生産本部 技術部 福田博寿

まずは車両の軽量化です。運動エネルギーはその重量に比例しますので、車両の軽量化は省エネルギー化に直結します。通勤電車のように発進と停止を繰り返す場合はなおさらです。車体についてはアルミ合金やステンレス合金、さらには繊維強化プラスチック( FRP )などへと軽量化が進められてきました。また、台車や電動機、制御装置などについてもさまざまな取り組みが行われてきましたが、現在では車両の軽量化は安全性の確保という観点からも著しい進展はみられていません。
このように車両の軽量化に依存するだけでは、さらなる省エネルギー化の実現は困難です。もちろん、軽量化だけでなく電動機や制御装置などの効率化への努力がこれからも続けられていくでしょうが、いま省エネルギー化の切り札として期待されているのが「回生電力貯蔵装置」です。

いくら大容量の回生電力があっても、
消費されなければ持ち腐れ。

「回生電力」をご存知でしょうか。いまやエコカーにはあたり前に回生ブレーキが使われていますので、すでに耳慣れた言葉かもしれません。GSユアサで回生電力貯蔵装置の設計に携わる福田が説明してくれました。

「回生電力とは車両の減速時に電動機を利用し、運動エネルギーを電力エネルギーに変換することによって生み出される電気のことです。この仕組みを利用した電力回生ブレーキはすでに電車のブレーキの主流になっています」。
この回生電力は近くを走行する電車が始動や加速にすべて使ってくれれば有効活用できているといえるのですが、消費する電車が少ないと架線電圧が上昇したり、消費する電車が近くにまったくいない場合は回生電力は消費されず、電力回生ブレーキが効かない状態が生じます。この様な状態を「回生失効」と呼び、回生電力の有効活用の面からもできるだけ避けたい状況です。せっかく生み出した回生電力を、使わず捨てるのはムダというわけです。
福田は「そこで、回生電力が余る場合は蓄電池に充電しておき、それを多くのエネルギーが必要なときまで蓄えておくという発想が生まれたのです」と言います。このようなモッタイナイ発想から日本初のリチウムイオン電池を用いた回生電力貯蔵装置として実用化したのが、GSユアサの「E3 Solution System」です。

回生失効防止
※「き電」とは、列車運行のための電力を供給すること。
回生電力貯蔵装置 「E3 Solution System」外観
回生電力貯蔵装置「E3 Solution System」外観

EV搭載用リチウムイオン電池が、装置開発を力強く後押し。

回生電力貯蔵装置「E3 Solution System」の開発は12年前の2005年まで遡ります。当初は鉛蓄電池を使用したシステムが考えられましたが、電池の質量およびスペースの点からなかなか実用化には至りませんでした。「何せ車両制動時に発生する回生電力は数百kWの大電力です。これを貯蔵していくとなると、従来にない大電力を吸収できる蓄電池が不可欠でした」。回生電力貯蔵装置の誕生へ向けては電池の高入出力化および小型軽量化が最大の課題となったのです。

ちょうどそのころ、自動車業界ではEVの市場投入が着々と進められていました。もちろん必要とされるのは、高性能の車載用リチウムイオン電池です。GSユアサでは1990年前後からリチウムイオン電池の開発を始め、その後は小型電池から大型電池へと軸足をシフトし、2002年には産業用リチウムイオン電池の生産を開始しています。「車載用途では電池容量を最大限に高めるとともに、多数の電池を限られたスペースに効率良く収容することが求められます。車載用リチウムイオン電池の開発は、同時に回生電力貯蔵装置の誕生を力強く後押ししてくれました」と福田は語ります。
車載用リチウムイオン電池の開発力を、他用途の電池開発にもいかんなく発揮する。それは総合バッテリーメーカーとして幅広いラインアップを持つGSユアサだからこそできたことであり、それがなければ回生電力貯蔵装置の誕生もなかったといえるでしょう。

最新の回生吸収用高入出力リチウムイオン電池
最新の回生吸収用高入出力リチウムイオン電池
非常走行用大容量リチウムイオン電池
非常走行用大容量リチウムイオン電池

リチウムイオン電池を用いた
日本初の回生電力貯蔵装置を提携会社と共同設計。

小型・高入出力のリチウムイオン電池を手にした回生電力貯蔵装置のシステム設計チームですが、課題はもうひとつありました。リチウムイオン電池の充放電をいかにコントロールするかです。「それについては双方向DC/DCコンバーターを介して制御を行っています。これは当社の専門分野ではありません。そこで、鉄道部品の専門メーカーと提携し、共同で実用化にむけたシステム設計を行うことになりました」。設計にあたっては提携会社の工場で、GSユアサのリチウムイオン電池と先方のDC/DCコンバーターを組み合わせて試験が行われましたが、初めての設計品であったので最初はいろいろな不具合が発生しました。「息が合うまでは相当に焦りましたが、そこはお互いにプロ同士。試行錯誤の末に、何とか完成へとこぎつけることができました」と福田は当時を振り返ります。

ここで製品名「E3 Solution System」に触れておきます。「E3」とは何を指すでしょうか。それは「Energy、Ecology、Economy」の3つです。「E3 Solution System」は回生電力を必要に応じて充放電して回生失効を防止するのはもちろん、変電所からの距離が遠いところでは電圧降下を防ぎます。また、朝夕のラッシュ時などの電力ピーク時には貯蔵電力を放出して使用電力量を抑制し、契約電力料金の低減にも貢献します。納入実績はすでに数社の電鉄会社におよんでおり、そのすべてにおいて期待通りの導入効果を上げています。

電圧降下補償
ピークカット

東京オリンピックでは新システムで鉄道の安定輸送に貢献。

新たな E ( Emergency ) をプラスして、4Eへとシステム進化。

最後に回生電力貯蔵装置のこれからに話を向けると、「実は“非常走行”という新たなミッションが加わった新システムを開発し、すでに1社へ納入を完了しています」と教えてくれました。これは従来の回生電力吸収用に加えて非常走行用リチウムイオン電池を備えたもので、自然災害などで電力会社からの送電が停止した場合、このシステムから電力を供給して速やかに電車を最寄駅まで走行させます。いざというときに乗客の救助が困難とされる、地下鉄やモノレールの弱点を克服するものとして期待されているそうです。
「これまでの3EにEmergency(非常時)がプラスされ、4Eへとシステム進化したともいえます。2020年には東京オリンピックが開催されますが、そのときの重要課題のひとつが鉄道の安全輸送への対策です。その取り組みのひとつとして非常走行機能の設備導入のニーズが高まっており、最近では多くの引き合いがきています」と話は続きます。

今回は電気鉄道業界におけるエネルギー貯蔵装置の誕生を深掘りしました。しかし、産業用リチウムイオン電池の活躍フィールドは移動手段だけでなく、いまや通信や社会インフラにまで広がっています。「GSユアサがめざすのは“エネルギー・デバイス・カンパニー”です。これからも蓄電池を活用したさまざまなシステムを開発し、持続可能な社会の実現に貢献していきます」と福田が締めくくってくれました。

非常走行
「これからも蓄電池を活用したシステムで、持続可能な社会の実現に貢献します。」(福田)
「これからも蓄電池を活用したシステムで、持続可能な社会の実現に貢献します。」(福田)