GSユアサの電池をめぐる物語 The Deep Story

Vol.1国産電池、いよいよ国際宇宙ステーションへ。

国際宇宙ステーション(ISS)の次期電源バッテリーに採用された GSユアサのリチウムイオン電池が、宇宙ステーション補給機「こうのとり」に積まれ 今年、JAXA種子島宇宙センターより宇宙に送り出されます。 電池の開発秘話とともに、GSユアサと宇宙の意外な関係をご紹介します。

ISS用リチウムイオン電池開発担当
瀬川 全澄

ISS用リチウムイオン電池開発担当 瀬川 全澄

GSユアサの電池を運ぶのは日本の宇宙船「こうのとり」、
オールジャパンでISSの運用を支えます。

新型ISSバッテリーを搭載した曝露パレット(後方)とGSユアサ製リチウムイオン電池(手前右)
新型ISSバッテリーを搭載した曝露パレット(後方)とGSユアサ製リチウムイオン電池(手前右)

H-UBロケット6号機によって打ち上げられる「こうのとり」6号機には、ISS用の新型バッテリーが6個積まれる見込みです。新型バッテリーには、現在使われているニッケル水素電池に替わって、当社が専用に開発したリチウムイオン電池が採用されました。ISSには現在48個のバッテリーが搭載されていますが、新型バッテリーは半分の24個で同等の能力を発揮します。今後、残りの18個も「こうのとり」で順次運ばれる予定です。

「こうのとり」2号機/H-IIBロケット2号機打ち上げ
「こうのとり」2号機/H-IIBロケット2号機打ち上げ

老朽化したバッテリーの交換が順調に進まないと、近い将来ISSは電力面で深刻な事態に直面するといわれています。GSユアサのリチウムイオン電池をはじめ、運搬するロケットと補給機も日本製であり、ISSのオペレーションを日本が支えていることを象徴する出来事です。

ISSに接近する「こうのとり」4号機
ISSに接近する「こうのとり」4号機

ISSの全機能を支える電池。太陽光で発電し、
バッテリーに蓄えて1日に16回の夜に備える。

「きぼう」船内実験室の窓から見た、太陽電池パドル(SAW)
「きぼう」船内実験室の窓から見た、太陽電池パドル(SAW)

そもそも、宇宙ステーションにどうして電池が必要なのでしょう? ISSでは、水や空気を供給して宇宙飛行士の生命を維持するのも、実験や観測に使う機器を動かすのも、すべて電力です。その電力は、太陽光発電によってつくられます。ISSの翼のように見える広大な領域は、太陽電池を敷き詰めた発電設備(太陽電池パドル)です。
太陽電池でつくられた電力は、ISSの各エリアに送られるとともに、バッテリーに蓄えられます。というのも、太陽電池は地上と同様、夜になると発電できないからです。1周約90分で地球を回っているISSは、1日に16回も地球の影に入るので、そのたびに発電がストップします。1日に16回訪れる夜間の電力は、すべてバッテリーからの供給に頼ることになります。 

新しい電池は従来の約3倍の高エネルギー密度。
宇宙の特殊な環境で10年超の長寿命を目指す。

今回採用されたリチウムイオン電池(形式:LSE134、定格容量:134Ah)
今回採用されたリチウムイオン電池(形式:LSE134、定格容量:134Ah)

宇宙空間は地上では想像できない特殊な環境です。
無重力で真空、しかも地上にはほとんど到達しない強い放射線も降り注ぎます。
また、宇宙で使用する電池は、ロケット打ち上げ時に20Grmsをこえる振動、ときには1400Gをこえる衝撃にも耐えなければなりません。
さらに宇宙で使う電池には、大きな課題があります。それは、小型軽量でありながら、高い信頼性を保つこと。宇宙空間に物資を運ぶためには膨大なコストがかかります。電池が小さくなれば、より少ない回数ですべてのバッテリーを輸送することができます。また、トラブルが発生しても簡単に交換や修理ができないので、信頼性は何よりも重要です。

「電池が軽くなれば、交換時のコストが低減されます。」ISS用リチウムイオン電池の開発に携わった瀬川は話します。「私たちは、現在使われているニッケル水素電池に比べて、高率充放電性能と高エネルギー密度のバランスに優れた、ISSの運用に合う設計を目指しました。また長寿命であることも特長で、今後、長期間にわたって活躍してくれるのではと期待しています。」

求められるのは、小型軽量で信頼性の高い電池です。
求められるのは、小型軽量で信頼性の高い電池です。

宇宙用電池の開発に取り組んだ半世紀の歴史。
JAXAとともに世界をリードする電池を実現。

高性能宇宙用リチウムイオン電池ラインアップ
高性能宇宙用リチウムイオン電池ラインアップ

GSユアサと宇宙のかかわりは、約半世紀以上も過去に遡ります。1970年に打ち上げた国産初の人工衛星「おおすみ」や、1975年に打ち上げに成功した国産ロケットN-1にも当社の酸化銀・亜鉛電池が搭載されていました。その後、酸化銀・亜鉛電池で数多くの実績を重ねる一方、より小型・軽量・高性能なリチウムイオン電池に注目し、1998年には宇宙用リチウムイオン電池の製造を開始します。

2006年、国産大型ロケットH-UA 8号機にGSユアサのリチウムイオン電池が搭載され、宇宙用電池としての評価を高めます。その後、JAXAとの共同研究などによって機能性と信頼性をいっそう高め、H-UBロケット、陸域観測技術衛星「だいち2号」、「こうのとり」など数多くの宇宙機に採用されていきます。これらの実績から、2009年にISSの新型バッテリー用電池として、NASAから候補指名を受けることになりました。

暗闇で正体不明の敵と戦うような日々。
NASAの条件を想定し、手探りで開発。

まだ本当の達成感はありません。交換が終わり、問題なく作動して初めて『よかった!』と心から喜べると思います。それだけの重圧とやりがいはありますね。

「受注できたのは予想外でした。」ISS用電池開発の中心になった瀬川に聞くと意外な答えが返ってきました。「国内外で多くの実績がありましたが、そのほとんどが商用の人工衛星なので、まさかNASAから声がかかるとは、思いもよらなかったのです。しかも、NASAからは何一つ具体的な指示はなく、ライバル社も分かりません。これでは、真っ暗闇で見えない敵と戦うようなものです。」
瀬川は当時を振り返ります。「そうは言っても、当社のリチウムイオン電池を世界に送り出す大きなチャンスです。まず、ISSで求められる機能や条件を想定し、JAXAとの共同研究の成果も織り込みつつ、最適と思われる電池を設計して提出しました。しかし、本当に大変なのはここからでした。NASAの監査です。的を射た鋭い質問が次々に飛んできます。」
2012年、瀬川を中心にしたチームの頑張りとGSユアサの技術力・品質保証体制が評価され、正式にサプライヤーに決定。これからGSユアサのリチウムイオン電池を採用した新型バッテリーへの交換ミッションがスタートします。しかし、瀬川はいいます。「まだ本当の達成感はありません。交換が終わり、問題なく作動して初めて『よかった!』と心から喜べると思います。それだけの重圧とやりがいはありますね。」

世界中のロケットや宇宙機にGSユアサの電池を載せたい。
世界中のロケットや宇宙機にGSユアサの電池を載せたい。