サステナビリティ経営方針
人と社会と地球環境に貢献することで
持続的成長と企業価値向上を目指す
グローバルでカーボンニュートラル実現に向けた潮流が加速しており、これは当社にとって大きな追い風であると認識しています。モビリティの電動化や社会インフラにおける再生可能エネルギーの導入拡大など、蓄電池の重要性が拡大するにつれて、当社の製品・ソリューションが活躍できる分野がさらに広がりつつあるからです。このような環境の中でサステナブルな社会の実現に貢献するには、これまで培ってきた「電気を蓄える・使う」技術のさらなる革新とともに、それらの技術を社会インフラの中に広く実装し、運用していくことが重要です。
そこで2023年4月、従来定めていた「経営ビジョン・経営方針」を見直し、新たに「サステナビリティ経営方針」を策定しました。エネルギー技術で持続可能な社会の実現に寄与していくとともに、サステナビリティ課題の解決にも貢献し、当社自身も持続的に成長することにより、企業価値の向上を目指すという経営姿勢を明文化しました。当社グループの従業員をはじめとする関係者が本方針のもと成長することにより、人と社会と地球環境に貢献できると確信しています。
この「サステナビリティ経営方針」には、当社の企業理念である「革新と成長」を補完する役割もあります。一般的に「革新」と聞くと、画期的な新技術や新製品の発明を連想しがちですが、それだけが革新ではありません。従来からある技術や仕組みを融合、統合、一体化することで、より良いものに進化させていく取り組みも革新です。さらに技術開発の分野に限らず、生産現場や営業、品質保証、人事などさまざまな部門で行われている「改善活動」も革新に繋がる活動です。日々の小さな改善は新しい価値の創出であり、それらを通じて自らも成長していくことができます。
当社が持続的に成長するためには、従業員一人ひとりの力が欠かせません。日々、持続可能な社会の実現に貢献するという目標に向かって、常に革新の意識を忘れずに目の前の業務に取り組んでほしいと伝えています。
Vision 2035
「モビリティ」「社会インフラ」の
2つの分野に注力し、社会課題解決に貢献
2023年4月、当社は長期ビジョン「Vision 2035」を発表しました。創業者のDNAやこれまでの100年以上の歴史の中で培ってきた知見を礎として、次の100年に向けて「革新と成長」を実現するために「2035年のGSユアサのありたい姿」を定めました。これは当社の戦略の指針であり北極星のような存在となり得るものです。「モビリティ」「社会インフラ」の2つの分野に注力することで社会課題解決に貢献し、持続可能な社会と人びとの快適な生活環境の実現を目指します。着実に事業を拡大させることで、2035年度には売上高8,000億円を目指します。
Vision 2035では、4つの『Re』をキーワードとし、本ビジョンの達成を目指します。
「ありたい姿」の実現に向けて
バックキャストで道筋を定める
Vision 2035の策定にあたっては、まず当社の事業領域における長期的な環境変化を予測することから始めました。当社の主要製品である蓄電池のグローバルでの需要は、2019年の230GWhから2050年には約10,000GWhと、40倍以上に拡大すると見込まれています。
「モビリティ分野」では、ゼロ・エミッションに向けて電動化が加速するとともに、自動運転技術が進展すると予想されます。当社も電動化への対応として、従来の始動用鉛蓄電池を主力にした事業構造から、駆動用リチウムイオン電池を中心とした事業構造にシフトしていく必要があると考えました。
一方「社会インフラ分野」では、カーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力系統や事業所などの需給調整に必要な蓄電池の重要性がさらに拡大する見込みです。加えて電力・情報・通信インフラなどの領域では、バックアップ用途としての重要性もさらに高まるでしょう。
このような市場環境のもと、事業構造を変革させつつも、世界的な追い風を捉えて当社の得意分野を伸ばすことで、事業を確実に成長させていくという方向性を固めました。
「技術へのこだわり」と
「パートナーとの信頼関係」を強みにして
Vision 2035の策定プロジェクトでは、2035年頃に第一線で活躍していると想定される課長クラスのメンバーに参画してもらい、初めに当社のありたい姿について議論を重ね、原案を作成しました。その後、私や社外取締役を含めた経営層とともに内容を精査し、当社の未来についてディスカッションをしながらVision 2035を練り上げていきました。
ディスカッションの中で特に印象に残っているのは、「資金面や競争環境を踏まえると、BEV用リチウムイオン電池事業への大型投資はリスクが高いのではないか」という意見に対して議論したことです。たしかに、これまで鉛蓄電池をベースに成長してきた当社がBEV用リチウムイオン電池に舵を切るのは、リスクある判断であるともいえます。しかし私自身、当社の成長にとってBEV用リチウムイオン電池というピースは絶対に外せないという想いがありました。BEV用リチウムイオン電池市場で戦うためには、当社単独でのビジネスではなく、経験やノウハウが豊富な企業とのパートナーシップが欠かせません。当社はこれまで、(株)ブルーエナジー、(株)リチウムエナジー ジャパンをはじめ、さまざまなパートナーとの協業・共創によって成長を続けてきました。だからこそ創業期から一貫して技術立社である当社は、技術に徹底してこだわらねばなりません。そうすることでパートナーに選んでいただき、当社も共に持続的な成長を続けることができる、と結論付けました。
BEV用・電力貯蔵システム(ESS)用
リチウムイオン電池を核に
持続的な企業成長を目指す
BEV用リチウムイオン電池を中心としたモビリティ分野の取り組みの第一歩として、2023年7月に本田技研工業(株)との合弁会社(株)Honda・GS Yuasa EV Battery R&Dを設立しました。新会社では、急速に拡大するBEV市場の需要に対応すべく、グローバルレベルで高い競争力を持つリチウムイオン電池の研究開発を推進するとともに、主要原材料のサプライチェーンや効率的な生産システムを構築し、BEV事業への本格参入を目指します。
また、新会社における研究開発の成果を生かし、2027年4月にはBEV用リチウムイオン電池の生産ラインを稼働、10月から量産を開始し、2030年にかけて順次生産ラインを立ち上げ、2035年にはグループ全体で20GWh超/年の生産能力にまで拡大させる予定です。
BEV用リチウムイオン電池の開発の成否は、再生可能エネルギーのESS(定置)用などの常用分野の戦略にも大きく関わるため、非常に重要な位置付けです。入札案件が多いESS用リチウムイオン電池は、単独では収益のボラティリティが大きくなります。安定したBEV用リチウムイオン電池の生産能力や技術ノウハウを生かすことでコストを低減し、競争力を高められると考えています。本田技研工業と着実に開発を進めることで、BEV用・ESS用の拡大に繋げます。
当社がグローバルで戦うにあたり、今回素晴らしいパートナーとBEV用リチウムイオン電池ビジネスを進められることは非常に幸運だと思っています。このパートナーシップ実現の背景には、本田技研工業との合弁で2009年に設立したブルーエナジーで、同社からのニーズに応えながらハイブリッド車(HEV)用リチウムイオン電池事業を着実に成長させてきたという実績と信頼関係があると考えています。
社会インフラ分野においても、BEV用リチウムイオン電池をベースにした生産能力を活用することで、さらなる事業拡大を目指します。ESS用リチウムイオン電池の競争力を高めることで、当社のプレゼンスを拡大するとともに、社会の安心・安全を支えていきます。
モビリティ分野と社会インフラ分野の両方を事業に有していることは当社の強みです。この強みを生かして社会に貢献することで、企業価値の向上を目指します。
鉛蓄電池事業で、成長への投資原資を創出する
一方、既存事業における自動車用鉛蓄電池については、欧州などで鉛使用に関する規制が強化されていることもあり、市場は漸減していくと認識しています。ただし鉛は埋蔵量が豊富で、かつリサイクルも容易なサステナブルな資源であり、電動化に比例してすぐに鉛蓄電池がなくなるとは考えていません。また、各国で市場環境も異なるため、全世界で一律に電動化が進むわけではないと予想しています。時間軸・地域軸の両面で、各国の状況を見ながら需要を確実に獲得していきます。産業用鉛蓄電池・電源装置はバックアップ用途として引き続き重要性が高まるものと考えており、当社が果たす役割は大きいと認識しています。それらのキャッシュを刈り取った上で得た利益を新分野への投資原資にしていきます。その上で自動車用鉛蓄電池が一定残った場合は、当社にとってさらにメリットであると考えています。
将来に向けて、研究開発、新たな取り組みを強化
Vision 2035における研究開発戦略では、リチウムイオン電池を中心としつつ、全固体電池をはじめとした次世代電池の研究開発・実用化を推進していきます。なかでも大阪公立大学と共同で進める先進固体電池の研究開発は、2022年11月に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業にも採択されています。全固体電池の実用化に向け、今後もさらに研究開発のスピードを加速させていきます。
また2035年頃からは、当社が蓄積してきた多様な技術・ノウハウを新ビジネス創出の種(シーズ)と捉え、「新たな取り組み」を育成します。現在新たなビジネスの創出に向けたアイデアを社内から公募する「Bizチャレ」というプロジェクトを開始しており、第一段の募集を終え十数件のビジネスアイデアを選定しました。既存事業の顧客基盤・事業基盤や技術を活用した派生事業領域とデジタル技術を取り入れた既存製品に付加価値をつけたビジネスなど、多様なアイデアの集積の中から事業として形になるように進めています。応募者の意欲が非常に高く、多くの従業員が創業からのチャレンジ精神をしっかりと受け継いでいるということが、当社の未来にとっての貴重な資産であり、人的資本の強化にも繋がっていると改めて認識しています。
第五次中期経営計画の振り返り
第五次中期経営計画の数値目標を達成
2022年度業績は売上高、営業利益、当期純利益がいずれも過去最高を更新する増収増益となり、第五次中期経営計画の最終年度として数値目標を達成することができました。
第五次中期経営計画の成果として、自動車電池事業では、パナソニック(株)から譲受した鉛蓄電池事業とのシナジーによる効果と、トルコ拠点の連結子会社化が好成績に繋がりました。
産業電池電源事業では、サンケン電気(株)から社会システム事業を譲受し、調達、開発、製造、販売・サービスなど多部門でシナジーを発揮しています。また北海道の風力発電向けに世界最大規模の蓄電池設備を受注・納入し、20年間の保守・メンテナンス業務を請け負うことで、目指してきた「コトづくりビジネス」に参入できたことは大きな成果です。継続的に収益を得られるビジネスの成功例として、今後の事業展開にも生かしていきたいと思います。
車載用リチウムイオン電池事業では、確実に利益を生み出せる体制になったことが大きな成果です。ブルーエナジーの第2工場の稼働開始に加えて、トヨタ自動車(株)へのHEV用リチウムイオン電池の供給も開始し、事業規模と収益を拡大させるための布石を打つことができました。他の自動車メーカーからも多くの引き合いがあり、主力事業として今後もさらに期待しています。
これまで第三次、第四次中期経営計画では目標未達だったため、第五次中期経営計画目標は「グループ一丸となって必ず達成する」との強い意志のもとで推進してきました。コロナ禍をはじめとする想定外の厳しい事業環境下でやるべきことを確実に実行し、計画を完遂できたことは自信に繋がりました。
第六次中期経営計画の展望
大きな飛躍に向けた土台づくりの3年間に
2023年度から第六次中期経営計画がスタートしました。この3年間は、Vision 2035の達成に向けて当社グループが大いなる飛躍を遂げていくための土台づくりと位置付けており、3つの実行施策を講じていきます。
第一の施策はBEV用リチウムイオン電池の開発、生産・供給体制の整備です。2027年度の量産開始に向け、着実に準備を進めます。
第二の施策は既存事業のさらなる収益力強化です。私は以前から、両利きの経営の重要性をさまざまな機会に述べてきました。当社の持続的な成長のためには、既存事業における収益拡大への注力に加え、そこで生み出した利益を成長分野に再投資していくという方針が重要です。国内・海外ともに、生産体制の集約などを含めた最適生産体制の構築を進めることで資本効率を高め、成長投資のための主要な源泉である収益を確保します。またHEV用リチウムイオン電池については、この第六次中期経営計画期間中に生産能力を年間7,000万セルまで拡大して需要に対応し、収益力を高めます。
第三の施策はデジタルトランスフォーメーション(DX)と新規事業の強化です。DXについては、既に研究開発部門や営業部門などにおいて、さまざまな場面でAIやIoTなどのデジタル技術の活用を進めています。また、人的資本への投資を進めるとともに、先述の2035年頃からの新規事業の事業化に向けた取り組みを進めます。
このような戦略を推進することで、第六次中期経営計画の最終年度である2025年度には、売上高6,100億円、のれん等償却前営業利益410億円を目指します。
ESG
Vision 2035の達成に向けてESGへの取り組みは欠かせません。経営層からしっかりとコミットメントしていく必要があると認識しています。2023年度からCSR委員会をサステナビリティ推進委員会に改組し、サステナビリティに関する取り組みを引き続き推進するとともに、取締役会でのサステナビリティに関する議論もさらに活発化していきたいと考えています。
E:環境
当社は2021年5月に「GY環境長期目標2030」を公表し、京都事業所の電力を100%再生可能エネルギー電力に切り替えるなど、脱炭素社会への移行に向けた活動を進めてきました。2023年4月には「GYカーボンニュートラル2050」を宣言し、カーボンニュートラル達成に向け、①省エネルギー対策の推進、②再生可能エネルギー発電の推進、③再生可能エネルギーの調達、の3つの施策を着実に進めていくことを表明しました。
加えて社会全体のカーボンニュートラル実現に向けても、当社製品が果たすべき役割は非常に大きいと認識しています。今後も環境配慮製品の販売を拡大することでCO2を削減し、地球環境と社会に貢献していきます。
S:社会
当社は、企業の根幹である人的資本を重要視しています。今後も当社が持続的に成長し社会に新しい価値を提供し続けるためには、強さだけではなく、変化に対応できるしなやかさを持つ人材と組織の確保が必須です。人的資本の強化に取り組み、チャレンジスピリットを持って新たなビジネス創造を目指す自律型人材の採用・育成を促進することで、社会に新しい価値を提供し続けます。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の取り組みにさらに注力し、多様な個性・能力をもった人材が、それぞれのライフステージや特性、チャレンジ意欲に応じて活躍でき、成長を支援する体制・制度をさらに整備していきます。なお、こうした取り組みを評価するために、従業員エンゲージメントのKPIを設定しており、従業員の熱意を企業の成長力に繋げていきます。Vision 2035の推進において、事業の課題を従業員一人ひとりの課題や目標設定にまで落とし込めるよう、事業部門と人事部門の連携を強化します。
全社で推進しているDXに関しても鍵を握るのは人材です。現在、社内でのDX人材育成計画を推進しており、2022年度にはDXの基礎知識に関するeラーニングを全社で実施しました。2023年度は「DX育成道場」を開設し、より高度なDX人材の育成に向け、各部門から推薦したメンバーを対象に専門教育を実施する予定です。
G:ガバナンス
現在、役員評価に環境目標に対する実績や従業員エンゲージメントをはじめとしたESG評価を反映できるよう、検討を進めています。これはかねてより指名・報酬委員会において議論していた事項であり、各役員の管掌領域に応じてESG課題とその評価に関する適切なKPIを定め、役員報酬体系に組み込む予定です。
サクセッションプランについてもさらに拡充していく考えです。CEOやCFOをはじめとした取締役候補に加えて、執行役員、事業部長、海外拠点長などについても後継者育成の仕組みを構築していくために、人事部や人事管掌役員、事業部の責任者を交えて3年後を見据えた議論を重ねています。
ステークホルダーのみなさまへ
持続的な成長の実現に向けて
さらに対話を深める
現在、当社のPBRは1倍前後と、低位な状況が続いています。これは当社がステークホルダーのみなさまに対して、資本収益性や成長性といった観点を踏まえた成長ストーリーを示すことができていなかったことも原因の一つであると考えています。今回成長ストーリーを発表し、第六次中期経営計画でも今後に向けた布石をしっかりと打っていきますが、結果が顕在化してくるのは2027年度以降になると想定しています。その過程においてもステークホルダーのみなさまとの対話を重視し、ご意見に真摯に耳を傾け、当社の決断に対するみなさまのご理解を深めたいと考えています。
今回Vision 2035を発表したことで、当社が何を大切にして、何を変革するのか、将来に向けてどこを目指すのかなど、当社の進むべき方向性と道筋をステークホルダーのみなさまに対して明確に示すことができたと思っています。当社は安定志向の会社だとみているステークホルダーのみなさまも多いと思いますが、今回BEV用リチウムイオン電池に舵を切り、ESS用リチウムイオン電池にも応用していくという、成長分野に照準を定めて事業基盤を大きく転換する方針を打ち出しました。私はこの方針以外に、当社が持続的に成長していく姿は思い描けないと思っています。
これまで培ってきた技術を生かして、モノを売るだけではなく、エネルギー全体をコントロールし、マネジメントしていくような会社になるために、従来のエネルギー・デバイス・カンパニーから、エネルギー・マネジメント・カンパニーを目指します。引き続き当社グループの未来にご期待いただくとともに、ご支援をお願いいたします。
2023年8月
代表取締役 取締役社長
